Accueil / 恋愛 / 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~ / 本当に助けてほしい人は…… PAGE7

Share

本当に助けてほしい人は…… PAGE7

last update Dernière mise à jour: 2025-06-30 10:11:18

「――では、お話しします。わたしがいつごろから誰につきまとわれて、どんなことで困っているのかを」

 わたしは会長に、大学二年生の頃から同級生だった宮坂耕次という男に一方的に好意を寄せられ、告白されたけれど返事を曖昧にはぐらかしたせいでそれ以来つきまとわれていること、少し前まではひっきりなしにメールやメッセージを大量に送り付けられて困っていたこと、昨日はとうとう住んでいるマンションの近くまで押しかけられたことを話した。

 桐島主任には昨日ザックリとは事情を話したけれど、彼にも改めて聞いてもらいたかった。

「…………というわけで困ってるんです」

 わたしは話し終えた後、またカフェオレで渇いた喉を潤した。会長はその間一言も口を挟まれず、丁寧に相槌を打ちながらわたしの話に耳を傾けて下さった。なるほど、これほど聞き上手な人になら、誰だってグチや悩みを話したくなるだろう。

「そういえばその男、この間会社にも押しかけて来たことがあったんですよ。そうだよね、矢神さん?」

「えっ、そうなの? わたし、そのことは何の報告も受けてないけど」

 会長が目を丸くされた。主任はあの時のことを、会長に報告されなかったらしい。

「はい、そうなんです。その時は桐島主任が追い返して下さったので……。わたしが怯えていたので、主任は取り次がないようにお願いして下さったんです」

「その時、受付からの内線電話を僕が取ったんですが。矢神さんの様子からこれは何かあるなと思って、僕の判断でそうしたんです。ご報告しなかったのは、実害がなかったので必要ないかと思いまして……。申し訳ありません」

「多分、主任はこのことを大(おお)事(ごと)にしたくなかったからだと思います。ですから会長、主任をお叱りにならないで下さい」

 部下としてここは主任をフォローすべきだと思い、わたしからも会長に頭を下げる。というか、わたしの問題で自分以外の人が上司に叱られるなんて申し訳なさすぎる。

「大丈夫よ、矢神さん。頭を上げて? 別にわたしは怒ってなんかいないし、彼が部下である貴女のことを思ってそう判断したなら、そこは責めるつもりもないから」

「ああ、よかった……」

「それよりも、問題はそのストーカーの方よ。会社や家の近くまで押しかけて来るっていうのは怖いよね……。そこまでされるようになったのは、貴女が連絡先をブロックしたから?」

「だと思
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   ひとりじゃない PAGE1

    「――でね、朝出勤してきてすぐに会長室に呼ばれて、会長と桐島主任に改めてストーカー被害のことで相談に乗ってもらったの。そしたら、主任がわたしのボディガードをしてくれるっていう話が出たんだけど、断った」「えっ、なんで? ……やっぱ入江くんじゃないとダメなわけ?」「…………そういうわけじゃ、ないけど。わたしの個人的な問題で上司に迷惑かけたくないから」 わたしは佳菜ちゃんの疑問を否定したけれど、「迷惑をかけたくない」というのはただの建前だと自分でも分かっている。 ――と。「――悪い悪い! 仕事が長引いて、来んの遅くなっちまった!」 ホカホカ湯気を立てたラーメンのどんぶりが載ったトレーを手に、やっと入江くんがわたしたちのテーブルへやって来て、向かいの席にドスンと腰を下ろした。彼はいただきます、と手を合わせてから熱々の麺をフーフーしながらすすり始めた、けれど。「そういやさっきの話、聞こえちまったんだけど。お前、桐島さんがガードしてくれるっつったの断ったって? なんで断ったんだよ」 入江くん、さっきの佳菜ちゃんとの会話、聞いてたんだ……。でも、「やっぱ入江くんじゃないと……」の部分は佳菜ちゃんが声をひそめていたから聞こえていなかったらしい。「入江くんも聞いてたんでしょ? これはわたしの個人的な事情だから――」「そんなの、お前の本心じゃねえだろ。付き合い長いんだから、お前の性格はオレがよぉーーく分かってるつもりだけどな」「…………えっ?」 彼は向かい側から手を伸ばしてきて、わたしの頭をポンポンと優しく叩く。「お前さあ、またひとりで何とかしようと思ってるだろ? お前のことだから、まぁた『大丈夫です』とか言ったんじゃねえの? それがお前の強がりだってオレが分かんねえとでも思ってた?」「うぅ…………」「矢神、お前はいい加減、困ったときは周りに助けを求めるってことを覚えなさい。何でもかんでも自分ひとりで抱え込まないこと、いいな?」「…………はい」 わたしたちのやり取りを横で聞いていた佳菜ちゃんが、ククッと笑い出した。「……どうしたの、佳菜ちゃん?」「んー、いや別に。あ~もう、じれったい! さっさとくっついておしまい、お子ちゃまカップル」「「カ……っ!?」」 佳菜ちゃんのトンデモ爆弾発言に、わたしと入江くんは二人同時にフリーズしてしまった。 そ

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   本当に助けてほしい人は…… PAGE9

    「差し当たり、出勤時と退勤後に彼女を貴方のクルマで送迎してあげてくれない?」「僕は別に構わないんですが……。会長の送迎はどうするんです?」「それなら、帰りも寺(てら)田(だ)さんに頼むから問題ないよ。貴方は何も心配しないで」 寺田さんというのが、篠沢家の専属ドライバーさんのお名前らしい。それはともかく、帰りの送迎の時間はお二人にとってお仕事を終えた後のプライベートに切り替わる貴重な時間のはず。そんな大事な時間まで、わたしのせいで奪ってしまうのは何だか申し訳なく感じた。「……あっ、あの。わたし、ボディーガードの必要はありません。大丈夫ですから」「「えっ?」」 「これはわたしの問題で、わたしが自分で解決しないと。会長や主任にご迷惑はかけられません。大丈夫です、自分の身は自分で守りますから。相談に乗って頂けただけで十分助かりました。ありがとうございました」 わたしは驚かれているお二人にそれだけ一気に伝え、相談に乗って頂いたお礼を述べた。「えっ? ……ええ、分かった。まあ、貴女がそれでいいなら……。ねえ、桐島さん?」「……はい」 お二人は納得がいかないご様子だったけれど、わたしはこれでいいと思った。 それに、わたしが本当に助けてほしい相手はやっぱり桐島主任ではなく入江くんなのだ。「――それじゃわたし、そろそろ仕事に戻らせて頂きますので、これで失礼致します」「……はい。お仕事頑張ってね」「ありがとうございます」 わたしはもう一度会長に頭を下げ、会長室を退出した。   * * * * ――午前の業務が終わると、わたしは給湯室の冷蔵庫に保管していたお弁当を持って社員食堂へと下りていった。お茶だけは食堂でもらおうと思ったのと、入社式の日からずっと入江くん、佳菜ちゃんと三人で昼食を摂ることが習慣になっているからだ。「――あれ? 麻衣、今日はお弁当持参? 美味しそうだね」 いただきます、と手を合わせて食べ始めると、オムライスを食べていた佳菜ちゃんが隣からわたしのお弁当箱の中を覗き込んできた。 入江くんからは「仕事がちょっと長引いてるから、社食に行くのが遅くなりそうだ」とメッセージが来ていた。食べている間に来るだろう。「うん、ありがと。昨夜はあんまり眠れなくて、朝早く目が覚めたからね」「えっ? 何か心配ごとでもあるの? っていうか、昨日あたし

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   本当に助けてほしい人は…… PAGE8

    「わたし自身、このことをあまり大げさにはしたくないんです。せっかくご縁があって入社したこの会社にもご迷惑をかけたくなくて」「矢神さん、そんなのおかしい! 貴女は被害者なんだよ? だったら、『会社に迷惑がかかる』なんて気にしちゃダメ。誰も迷惑だなんて思わないから。ねえ、桐島さん?」 会長はわたしの考えが間違っている、と指摘して下さった。彼女もかつてストーカーの被害者だっただけあって、被害者の方が気にしているのはおかしいとお考えのようだ。「僕も同感です。被害者だからこそ、むしろ周りを頼るべきだよ。君だって、そう考えたから会長に相談しようと思ったんだろう?」「……はい」 わたしは昔から何でも自分ひとりで何とかしようとするクセがあって、入江くんにもよく「ひとりで抱え込むな」と言われる。自分でもいけないことだと分かってはいるのだけれど……。「――ところで矢神さん、その中に、誰か貴女の身を守ってくれそうな人は何人くらいいるの? つまり、ボディーガードをしてくれそうな人っていう意味で」「そうですね……、父と入江くんと、桐島主任……くらいですかね」 父は一人娘であるわたしが狙われている以上、体を張って守ってくれそうだ。でも何か武道をやっているわけではないし、勤め人なのであまりムリは聞いてもらえそうにない。 となると、実質入江くんと主任の二人だけに絞られるけれど……。入江くんにはさっきあんなことを言ってしまった手前、わたしからは「ボディーガードになってほしい」と頼みにくい。「そう、分かった。――桐島さん」「はい?」「貴方にはしばらくの間、矢神さんのボディーガードをやってもらいましょ」「…………はいぃぃ!? ゴホゴホ……」 会長の予想外の提案に、主任が危うく飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになり、ゴホゴホとむせた。そしてわたしも目を丸くした。「主任に……わたしのボディーガードを? えっ、ちょっと待って下さい! それってどういうことですか?」「…………あの、どうして僕が? 矢神さんには多分、入江くんの方がいいと思うんですが」「貴方、矢神さんと住んでるところ近いでしょ? 何かあった時、すぐに飛んでいけるからいいと思うんだけど」「…………」 会長のお言葉に沈黙したのは、主任ではなくわたしだった。昨日、電話で「近くに住んでいないのがもどかしい」と入江くん

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   本当に助けてほしい人は…… PAGE7

    「――では、お話しします。わたしがいつごろから誰につきまとわれて、どんなことで困っているのかを」 わたしは会長に、大学二年生の頃から同級生だった宮坂耕次という男に一方的に好意を寄せられ、告白されたけれど返事を曖昧にはぐらかしたせいでそれ以来つきまとわれていること、少し前まではひっきりなしにメールやメッセージを大量に送り付けられて困っていたこと、昨日はとうとう住んでいるマンションの近くまで押しかけられたことを話した。 桐島主任には昨日ザックリとは事情を話したけれど、彼にも改めて聞いてもらいたかった。「…………というわけで困ってるんです」 わたしは話し終えた後、またカフェオレで渇いた喉を潤した。会長はその間一言も口を挟まれず、丁寧に相槌を打ちながらわたしの話に耳を傾けて下さった。なるほど、これほど聞き上手な人になら、誰だってグチや悩みを話したくなるだろう。「そういえばその男、この間会社にも押しかけて来たことがあったんですよ。そうだよね、矢神さん?」「えっ、そうなの? わたし、そのことは何の報告も受けてないけど」 会長が目を丸くされた。主任はあの時のことを、会長に報告されなかったらしい。「はい、そうなんです。その時は桐島主任が追い返して下さったので……。わたしが怯えていたので、主任は取り次がないようにお願いして下さったんです」「その時、受付からの内線電話を僕が取ったんですが。矢神さんの様子からこれは何かあるなと思って、僕の判断でそうしたんです。ご報告しなかったのは、実害がなかったので必要ないかと思いまして……。申し訳ありません」「多分、主任はこのことを大(おお)事(ごと)にしたくなかったからだと思います。ですから会長、主任をお叱りにならないで下さい」 部下としてここは主任をフォローすべきだと思い、わたしからも会長に頭を下げる。というか、わたしの問題で自分以外の人が上司に叱られるなんて申し訳なさすぎる。「大丈夫よ、矢神さん。頭を上げて? 別にわたしは怒ってなんかいないし、彼が部下である貴女のことを思ってそう判断したなら、そこは責めるつもりもないから」「ああ、よかった……」「それよりも、問題はそのストーカーの方よ。会社や家の近くまで押しかけて来るっていうのは怖いよね……。そこまでされるようになったのは、貴女が連絡先をブロックしたから?」「だと思

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   本当に助けてほしい人は…… PAGE6

     会長はスマホを開いてペアリングの写真を見せて下さり、「この裏側にお互いのイニシャルと結婚式の日付を彫(ほ)ってもらうの」と嬉しそうにおっしゃった。「でね、ウェディングドレスがこれで、お色直しのドレスがこのデザインで淡いピンクのドレスよ」  続いて見せてもらったのは、二着のドレスをお召しになった会長の写真。ウェディングドレスは真っ白なベアトップのドレスで、フワッとした可愛らしいシルエットが会長らしい。お色直し用のドレスは、肩から胸元にかけて透け感のある上品なレース素材になっているオフショルダーのドレスだ。「わたしはこの、二着目の方も捨てがたかったんだけど。そしたらね、式場の衣装係の人が『このデザインで色違いにして、お色直し用のドレスをお仕立てしましょうか』って言ってくれたの」「わぁ……、どちらもステキですね。会長はデコルテがおキレイなので、どちらもよくお似合いだと思います」「ありがとう、矢神さん。……あ、そうだ! 矢神さんも式に招待しようかな。入江さんも一緒に、どう?」「えっ、いいんですか!?」「ええ、もちろん。招待客のリストはこれから作るから、その中にお二人の名前も入れておくね。そんなに大勢招待するわけじゃないし、仰々しい式じゃないから気楽な気持ちで出席してくれたら嬉しいな」「ありがとうございます!」「――会長、僕のいないところで勝手に決めないで頂けますか?」 そこへ、三人分のカップが載ったトレーを抱えた桐島主任が戻って来て、会長に鋭いツッコミを入れた。「ごめん! つい女同士で盛り上がっちゃって。でも、貴方は反対なの? 矢神さんたちを式に招待するのに」「いえ、反対というわけでは……。ただ、僕に相談してから決めてほしいと申し上げているだけです」 主任は口を動かしながらも、テキパキとローテーブルの上にカップを並べる手を止めない。さすが、バリスタを目指していただけのことはある。カップからはコーヒーのいい薫りが立っていて、わたしの分は多分だけれど来客用の上等なカップだ。「…………分かりました。あ、コーヒーありがとう。矢神さんも、遠慮しないで頂きましょう」「はい、頂きます。……でも、いいんでしょうか? わたしの分のカップって来客用ですよね?」「いいんだよ。ここに相談しに来る社員はみんなお客さまみたいなものだから」「ちょっと桐島さん! わた

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   本当に助けてほしい人は…… PAGE5

     広田室長が挨拶返しもそこそこに、わたしにそう言った。……わたしの話って、もしかして昨日のことかなとすぐにピンと来た。そういえば、桐島主任の姿も見えない。ということはすでに会長室にいらっしゃるんだろう。「はい、分かりました。――あの、でも仕事は……」「ええ。ここに戻るまで、午前の仕事は免除してあげて、とも言われてるから。仕事のことは気にしないで行ってらっしゃい」「分かりました。じゃあ……ちょっと行って参ります」 わたしは会長室の重厚な木製ドアをノックした。「おはようございます。秘書室の矢神です。広田室長から、こちらへ来るように言われました」「矢神さん、どうぞ入って」 という返答の後、主任が中からドアを開けて下さった。「失礼します。――あの、会長。おはようございます。……わたしの話というのは、ストーカー被害のことでしょうか?」「ええ。……まあ、ここで立ち話も何だし、奥の応接スペースへどうぞ」 デスクの椅子から立ち上がられた会長が、わたしに応接スペースのソファーを勧めて下さった。「ありがとうございます。失礼します」「――貴女(あなた)がストーカーの被害に遭ってることは、桐島さんから聞いた。昨日も大変だったそうね。彼のおかげで助かったらしいけど」 わたしがソファーに腰を下ろすと、会長と主任はわたしと向かい合わせに座られ、本題を切り出された。「あ、はい。実はわたし、昨日までこのことを会長にご相談しようかどうか迷ってたんです。でも、やっとお話しする決心がつきました。ただ、どこからお話ししていいか……」「そうだよね……。まずは少し気持ちを落ち着けてから話してもらった方がいいかも。――桐島さん、コーヒーを淹れてきてくれる? わたしと貴方と、矢神さんの三人分ね」「はい、かしこまりました。――矢神さん、味の好みとかあったら教えてくれるかな?」「じゃあ……甘めのカフェオレで。ミルク多めでお願いします。あの、わたしもお手伝いしましょうか?」「いや、いいよ。今日の君は相談者だから、座ってて。では、淹れて参ります」 桐島主任が給湯室へ行ってしまうと、わたしと会長の二人だけになった。――さて、何を話せばいいものか? そういえば昨日、お二人が結婚指輪を注文しに行かれていたことを思い出した。「……あの、そういえば会長。結婚指輪は昨日注文されたんですよね?

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status